ケーブの道しるべ ― ラインとアローの哲学 ―        

(2025.5.27)

洞窟(ケーブ)に一歩足を踏み入れた瞬間、私たちは「帰り道が見えない世界」に身を置くことになります。入り口の光はすぐに消え、目の前に広がるのは真っ暗な迷宮。そのような環境で、頼りにすべき「命綱」があります。それがライン、そしてアローと呼ばれるマーカーです。

しかし、ラインは設置すれば安全というものではありません。読み取りのミス、設置の不備、統一されていないマーク……。一つの判断ミスが「命の帰路」を断ち切ってしまうのです。

目的

  • ケーブダイビングにおけるラインとアローの役割を理解する
  • 代表的なマーカー(アロー、クッキー、REM)の意味と正しい使い方を学ぶ
  • トラブル事例を通じて、安全運用とルールの必要性を考察する

アウトライン

■ ラインとは何か?
■ アローとマーカー
■ トラブル事例と教訓
■ 哲学とルールの融合
■ 最後に確認しよう

■ ラインとは何か?:3つの構成

ケーブで使用されるラインには大きく分けて3種類があります。それぞれの役割を理解することが、安全で確実なダイビングの第一歩です。

● メインライン
恒久的に洞窟内に設置されている本線であり、多くの場合、白または黄色のラインが使われます。あくまで「共通の通路」であり、個人の痕跡ではありません。

● ジャンプライン
支線(サイドパッセージ)に入る際、自ら設置するライン。出口への道筋を失わないためのブリッジ的存在です。

● リールライン
エントリーからメインラインまでをつなぐライン。スタート地点(水面など)からケーブ区間までの導入部分で使用され、万一のときの「命の導線」となります。

■ アローとマーカー:矢印だけではない“会話”

洞窟内では言葉を交わすことはできません。だからこそ、ライン上に残された「マーカー」が意思疎通の手段となります。

● アロー(Directional Marker)
最も重要なマーカーで、矢印の向きが出口を示します。出口が明確にわかる環境で使うべきで、逆向きに設置すると命にかかわるリスクがあります。

● クッキー(Non-Directional Marker)
円盤型など方向性のないマーカーで、チームメンバーや個人のルート識別に使われます。複数のチームが混在する環境では、誤認識を防ぐうえで極めて重要です。

● REM(Referencing Exit Marker)
離脱ポイントや特定の注意点を記録する目的で使用します。マルチステージダイブや複雑なルートにおいて、REMは出口の位置確認に役立ちます。

⚠ 逆向きのアローは致命的な誤導に繋がるため、必ず確認しながら設置・読み取りを行うべし。

■ トラブル事例と教訓

  • アローを忘れて迷子に: チームメンバーが設置したクッキーが命綱に。→ チーム全体でマーカーを設置し、共通ルールを守ることの重要性。
  • ラインが切れて帰還不能: 常時リールを所持し、帰還時には巻きながら安全に。→「備えあれば憂いなし」はケーブでは常識。
  • マーカーの混在による混乱: 他チームのマーカーを誤認 → 色・形のルールを明確に。→「見慣れたマーカー」が「見間違い」に変わる恐怖。

■ 哲学とルールの融合

ケーブにおけるラインは「個人の命綱」であると同時に、「チームの共有情報」でもあります。だからこそ、全員が同じルールのもとで設置・解釈・撤去する必要があるのです。

ラインワークとは単なる技術ではありません。仲間への配慮、将来のダイバーへの思いやり、そして生還するための哲学そのものなのです。

■ 最後に確認しよう

  • ラインにはそれぞれ 明確な役割と設置タイミング がある(メイン・ジャンプ・リール)
  • アローは進行方向を示すが、誤った設置は逆走の危険を生む
  • マーカーの使い方や形状・色の統一が、誤認事故の防止につながる

■ ミニテスト(1問)

Q. クッキー(ノンディレクショナルマーカー)の主な役割として適切なのはどれか?

A. チームメンバーや個人のルート識別