(2025.5.11)

セーフティドリル は、バディの命を守るためのリアルな予行演習です。
器材の配置や呼吸源の確認、バディとの連携動作などを事前に確認しないまま本番に突入するのは、言ってしまえば「スカイダイビングでパラシュートを開ける練習をせずに飛び出すようなもの」。
このセーフティドリル、テクニカルダイビングだけのスキルだとよく勘違いされている方を見かけます。
あなたのバディにエア切れのサインを出したら、冗談だと思って笑って写真を撮ろうとしてくれたら?
あなたのバディのホースから小さな気泡がこぼれ出ていたら?
もう一度言います。セーフティドリル は、バディの命を守るためのリアルな予行演習です
このコラムで気付いてほしいこと
- バディとのエアシェア手順を確認し、反射的に動けるようにする
- 器材の位置、稼働状態をセルフチェックする習慣を身につける
- 緊急時の対応動作を筋肉記憶に落とし込む
アウトライン
- S-Drillとは?
- 実施手順の例
- なぜ反復トレーニングが必要なのか
- ケーブやディープ環境での実用例
- よくある勘違い・ありがちなミス
- まとめと習慣化のコツ
1. S-Drillとは?
「Safety Drill」の略で、セーフティチェックの実践版です。
バディと想定トラブル(エア切れなど)をシミュレートし、セカンドステージのパスやポジショニングの確認、緊急浮上のシナリオを想定します。
エア切れだけでなく、例えばエアのリーク(ファーストステージやホースなどから)をお互い確かめ合うのも大事なセーフティドリルの内容です。TDIでは特に、減圧ダイビングやオーバーヘッド環境を前提としたコースでSドリルがより一層重視されています。
もちろんSDIでも取り入れられます。
LAZULIでは、ファンダイビングの前にも必ず取り入れています。
2. 実施手順
(バディがエア切れの場合を説明します)
- バディのエア切れのサインに合わせて素早くバディに自分のセカンドステージ(オルタネイト)を渡します。
- 素早く手に取れない配置、ブラブラしていてオルタネイトリカバリーから始まる配置は避けましょう。
- ホースがスムーズに動くか、絡まっていないかチェック
- バディが落ち着くまで待ってあげましょう。落ち着いたら、今の残圧を共有しましょう。
- 状況に応じて、そのまま浮上するか、近くにある潜降ロープなどに泳いで行くか判断し、1分間に9m以内の浮上速度を守って浮上します。
TDIの講習では一定の深度を保って行うことが推奨されます。フワフワ浮きながらやるのではなく、実戦想定で。
3. なぜ反復トレーニングが必要なのか
人間は緊張時、普段の5割以下の能力しか出せないと言われています。
つまり、Sドリルを「1回できた」だけでは不十分です。
- 毎ダイブやるから習慣になる
- 体が覚えるから、考える前に動ける
- 水中でバディとアイコンタクトする習慣ができる
まさに、「使わないことを願いつつ、いつでも使えるようにしておく」訓練です。
4. ケーブやディープ環境での実用例
- ケーブダイビングでは、レギュレーターの受け渡しでバタバタして方向を誤ると帰り道をロストしてしまうかもしれません。
- 減圧中のトラブルでは、「どのガスを渡すか」「切り替えタイミング」まで意思疎通が必要です。
→ Sドリルを通して、自分の器材の癖と限界を理解し、バディとの協調性も磨きましょう。

5. よくある勘違い・ありがちなミス
- オルタネイトが絡まって取り出せない
- 「毎回やるのは面倒」とスキップ→その一回が事故の火種
- バディが自分のセカンドの位置を知らないまま潜る
- レギュが壊れていても気付かないまま出港
まとめ
Sドリルは「エマージェンシー対応」ではなく、「エマージェンシーを未然に防ぐ準備」です。特にリスクに対処しておくことを前提とするテクニカル環境では、呼吸器・ガス・動作の正確性がすべての安全を支えています。
確認ポイント
- オルタネイトエアソースの配置を毎回確認している
- バディとSドリルを実施してから潜降している
- 呼吸器やホースの稼働を潜る前にチェックしている
- 水中でのバディ対応がスムーズにできる自信がある
最後に・・・
あるインストラクターが言っていました。
「セーフティドリルをしないで潜るのは、財布を持たずに海外に行くようなもの。トラブルがあっても対処できませんよ。」